〈比較を通して「比較級的な考え方」を捉える〉
比較には、「比較級的な考え方」もあります。
例えば、工業は、農林水産業の仕事に比べると「比較的」(わりあい)自然の制約を受けないですむということなどです。
具体的な事例で説明します。
5年生「工業生産と工業地域」の小単元です。
この小単元はややもすれば、太平洋ベルトや工業の特徴など、事実的知識を教えるだけの内容となりがちです。
そうならないよう、「構想型授業」を行う単元構成にしました。
ここでは「構想型授業」については詳しく触れませんが、簡単に説明すると、「獲得した概念的知識を活用しながらより豊かな判断(構想)ができる授業」のことです。
以下のような流れとなります。
第4時について説明していきます。
ねらいは、
内陸で生産されるICチップについて調べることを通して、工業生産も自然条件を利用しながら工夫した生産をしていることを理解することができる。 |
です。
工業地域が海沿いに多くあることは既習事項です。
ここでは、海沿い以外にある工業都市に気づかせ、問いをもたせます。
内陸で発達している「長野県松本市」に焦点をあてます。
以下、C(児童)T(教師)のやりとりを中心に述べていきます。
まず、 「工業都市は海沿いに多い」という既習知識と資料との「ズレ」から「問い」を引き出し、問題意識をもたせます。
C「あれ、海沿いじゃない工業都市もあるよ」
C「輸送に困らないのかな」
C「とても不便そうだね」
C「工業生産がさかんな地域は海沿いに多いのに、なぜ内陸で工業都市が発達しているのだろう?」
C「何がつくられているのかが知りたいな」
ICチップの実物を見せることでICの小ささや軽さを理解させ、輸送に便利だということに気づかせます。
C「魚や野菜は飛行機で運ばれることは少なかったけど、ICは小さくて軽いから運びやすいんだね」
C 「近くに高速道路や空港があるから運びやすいね」
T「それなら別に海沿いで生産してもいいのではないですか」
ゆさぶることで、輸送以外の条件にも目を向けさせます。
C「内陸で生産するよさが何かあるんだ」
松本市の写真を見せ、ICの特徴と自然条件を関連付けながら考えさせます。空気がきれいで自然豊かな場所での生産が適していることを捉えさせます。
C「ICはほこりに弱いから空気がきれいな内陸で生産されているんだ」
C「ICの洗浄をするために水が豊富な場所が適しているんだね」
C「内陸は、海岸のように潮風がないのでさびにくいんだね」
C「工業生産も、自然条件を生かしているものがあるんだ」
C「自然を生かしているという点は、海津市や沖縄、農業の時にも学習したね」
C「工業にも自然条件が生かされているのは意外だったな」
これら自然条件の利用については以前に学習しています。
例えば、低い土地やあたたかい土地のくらしの学習を通して「人は地形や気候 などの自然条件に合わせて工夫した生活をしている」という見方です。
農業でも、水産業でも、そして工業においてもつながりがあることを実感させることができます。
このように、獲得した概念的知識を繰り返し活用することで、さらに概念的知識が豊かになっていくのです。
さて、このようにして、工業生産も自然条件を生かした生産が行われていることを理解することができました。
ここでさらに比較を加えてみます。
「確かに、工業生産でも自然条件を生かした生産をしている。でも、農業ほどでもないし、農業にくらべて自然の影響を大きく受ける訳でもない」というような比較級的な思考に導くこともできます。
比較を通して、大きな差だけでなくより小さな差を見つけ、なんとなく違うといえる感覚を身につけることができるのです。