長岡(1977)は、「子どもの力」を「子どもが主体的に外界に働きかける力であり、働きかけて、自己を変革していく力」と説明しています。
その力を育てようとすれば、子どもがどう育っていくのかを探ることが必要です。
つまり、徹底的な「子ども理解」、とりわけ「個の理解」に努めることが必要です。
そこで長岡は、具体的な学級指導の中で「個」を育てる手がかりになるものとして、次の9つの項目を挙げています。
1 新しい学級 2 信頼 3 心おきなく話せるように 4 形式ばらない 5 恥をかかせない 6 発表を引き出す仲間関係を 7 豊かな表現の場を 8 「わたし」を 9 みんなでつくる学習を |
項目だけではわかりにくいところがあるので、一つ一つを本書に沿いながら端的に説明していきます。
「1 新しい学級」
授業は子どもを「さぐりつつ教え、教えつつさぐる」ものであり、それは、いつになっても変わらない本道です。いつまでも名前が出てこない、一番覚えにくい子はどの子かということを想起しながら過ごします。「一番目立たない子はどの子だろう」という視点を教師が意識してもつことが重要です。
「2 信頼」
「育てるに値する」「学ぶに値する」教師と子どもの人間としてのつながりができることが重要です。それは「感じ合う」ものであり「湧いてくる」ものです。教育作用の根源は、人間としての信頼にあり、人間として裸で子どもと体当たりをすることが重要です。
「3 心おきなく話せるように」
子どもを育てるはじまりは、その子どもの心の扉を開かせることです。「言って聞かせる」「教える」ということの前に、教師がまず「よい聞き手」になることが重要です。本当に子どもに対して驚き、子どもと話すことを待ちこがれる教師であるべきです。
「4 形式ばらない」
子どもが自分のことを(自分のねがいを)みつけ、自由につぶやき、主張することです。その際、形式ばった言い方をさせるのではなく、自分らしく表現させることが大切であり、技術や形式は、その表現の歩みのなかで磨かれていきます。
「5 恥をかかせない」
育ってきた子どもが、口を閉じてしまう原因の一つが「恥をかく」ことです。「恥をかかせない」また、すぐに「恥だ」と感じたりしないような学級の雰囲気をつくることが、学級経営のポイントです。
「6 発表を引き出す仲間関係を」
教師が、家庭的な学級の雰囲気をつくっていれば、子ども達は自然と自分たちの学習をつくり出します。つぶやきやおたずねも多くなります。相互に触発されるようになり、外界への問いかけの触発のし合いの場になります。
「7 豊かな表現の場を」
子どもは自己表現を通して自己を確かめ、自己を乗りこえていきます。教師の仕事のひとつは、子どもに表現の場を用意していくことです。子どもの表現の中に出てくる内容を教材として学習することもあります。それは、知識内容を教えるためだけでなく、子どもの「学問のしかた」「科学のしかた」をきたえていくことをねらいます。
「8 「わたし」を」
子どもの力を育てるのに欠かせないのは、「自分を分に書く」ことができるようにすることです。それは、作文力というものではなく、人間の生き方にかかわるものとして位置づけています。あらゆる学習に対して、「これは、わたしにとってどういう意味があるか、あったか」と問う姿勢が育ってくるように指導します。
「9 みんなでつくる学習を」
子どもたちが育ってくると、自分たちの学習に責任をもつようになります。そこに子どもたちの願いもでてきます。自分たちの学級づくりをし、学習の体制を確立していきます。教師と共に考え合う授業を構想して実現していきます。学習法が徹底していきます。
〈文献〉
長岡文雄(1977)『子どもの力を育てる筋道』黎明書房