社会のタネ

社会科を中心に、アートや旅の話などもあれこれと。

867 学びほぐし

先日、ある学習会で、次のような発言をされた方がおられました。

「個別最適な学び等、新たな教育用語がどんどん入り、教育界がめまぐるしく変化していることを感じる。今まで30年以上経験して獲得してきたもの(一斉授業のノウハウ等)を放棄しなければいけないと思うと困惑する」

ベテラン教師の方でした。年齢を重ねても学び続け、自分を変えていかなければいけないと感じておられる素敵な方だと感じました。それと共に、確かに長年積み上げてきたものを捨て、新たな価値観や考え方、方法を入れていくことは容易なことではないのだろうと感じました。私はまだ20年近くしか教員をしていません。それでも自分の中に固定化され、捨てきれないものがたくさんあるはずです。「こうあるべき」というものがたまっているのかもしれません。

しかし、今まで手にしてきたものをすべて捨て去るということが重要なのではありません。古く必要なくなったものを捨て、新たなものを入れてアップデートさせていく「アンラーニング」の考え方が重要なのです。

松尾睦(2021)は、先行研究を踏まえた上で、個人アンラーニングを「個人が、自分の知識やスキルを意図的に棄却しながら、新しい知識・スキルを取り入れるプロセス」と定義づけています。

また、

「「アンラーニング」=「信念・ルーティーンの変更」=「アップデート型の学習」=「入れ替え型の学習」=「学びほぐし」」

「有効ではなくなった信念・ルーティーンを変更し、有用な信念・ルーティーンを新たに獲得する「アップデート型(入れ替え型)」の学習、つまり「学びほぐし」の学習」」

と表現しています。

つまり、アンラーニングとは、今自分が持っている価値観や知識、スキル等を見直し、異なるアプローチから検討する学習法のことです。新しい価値観や知識、スキル等を取り入れやすくする手法だと考えることができます。

急激な環境の変化に対応可能な人材が社会から強く求められているのは周知の通りです。周りの環境に合わせ、時代の変化と共に身につけた自分の考え方や型を問い直し、解体し、再構築していく必要があります。アンラーニングは自分自身をアップデートさせる一助となります。

 理屈ではわかりますが、アンラーニングすることは容易ではありません。アンラーニングするには、自分の価値観や信念を問い直す「批判的内省」が必要だからです。「自分がもっている価値観や考え方は今の時代では古いかもしれない」「これまでのやり方では通用しないかもしれない」というように、批判的に見直さなければいけません。自分自身に問い直す姿勢と、アンラーニングの重要性に対する理解があってはじめて意識の変革が可能となります。

 また、意識的な行動や無意識化の行動も含めて、「今後の自分はどうあるべきか」という自分のあり方を考え直すことが重要です。定期的に自分自身をふり返ることで、自身が蓄積した知識・価値観・信念・技術をより確かなものにし、能力を向上させることができます。そのために、さまざまな価値観をもった人々との対話を通して自己を客観的に見つめ直す必要があります。意図的に、多様な他者との関わりを増やせる機会を設ける必要もあります。

 松尾氏は、本書の冒頭で

「『プロフェッショナルになる』ためには、自分の型やスタイルを作り上げなければなりませんが、『プロフェッショナルであり続ける』ためには、確立した型やスタイルを壊し、新たな型やスタイルへと作り直すことが欠かせません」

と述べています。

  持続可能で、子どもにとって価値ある教師であり続けるために、「変わり続ける勇気」をもちたいものです。

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