社会のタネ

社会科を中心に、アートや旅の話などもあれこれと。

1067 複線型の学習とは 

北俊夫(1993)は、『社会科〈関心・意欲・態度〉の評価技法』の中で、次のように述べています。

「(子ども一人ひとりを生かす)ことを実現するためには、従来の授業に対する固定観念にとらわれず、子ども自らの考えや問題意識に基づいて、自らの考えや学習活動をつくり出していけるように、教材や学習活動を子どもが選択する場や機会を設けることが大切である。このことは、複線型の学習を展開することである」(太字、下線は筆者)

「複線型の学習」とは、「複線」という意味が示す通り、子どもの学習における学習内容や活動が同時に2つ以上並行している学習のことです。学習問題や教材、学習方法などを画一的にせず、複数を用意します。子どもの意欲、思いや願いに応え、多様な学び方に対応しようと考えた学習形態です。

 その後、北は『「生きる力」を育てる社会科授業』(1996)、『個を生かす社会科「学習の複線化」事典』(1996)、『社会科の責任』(2000)などで「学習の複線化」について述べています。北が序文を記した、馬野範雄・井上和夫著の『複線型社会科授業の構想』(1997)という書籍もあります。

当時、なぜ「学習の複線化」が取り上げられていたのでしょうか。ふり返ってみると、1990年代までにも「一人一人の子どもを大切にする」とか「個に応じた指導」という名のもとに実践されていました。しかし、指導レベルでの具体的な工夫が必ずしも明確だったとはいえません。

従来の授業は、授業を構成する要素(目標、内容、教材、活動、評価、学習環境など)、すべてが画一的でした。教師主導の「単線型の学習活動」が中心でした。教師の敷いたレールの上を、すべての子どもが一斉に走り出すというイメージです。

それでは子ども達の学習意欲や問題解決能力、社会的なものの見方や考え方が育まれないという指摘がありました。一人一人の子どもの学びに視点をあてるという教師の授業観や子ども観の転換が迫られたわけです。そこで「学習の複線化」と呼ばれるような実践が増えてきたのが1990年代でした。