「自己評価」については、安彦忠彦の研究に着目しました。
主に心理学によって議論されていた「自己評価」論に、教育学的視点を盛り込み、より大きな概念として「教育における自己評価」の必要性を説きました。
安彦は、「評価は本来すべて自己評価である」と一貫して主張しています。
また、安彦(1987)は、「自己評価とは、子どもが自分で自分のめざした行動を正しく実現できるためなのである」と述べ、意識的なフィードバックを通して行動を修正することの重要性を説明しています。
自己の活動の改善を第一の目的とし、子どもたちがよりよい自分をつくっていくために妥当な自己評価をすることができる能力の育成を目指しています。
自己評価能力の中身として、安彦(1994)は次の4点を挙げています。
① 評価基準の妥当な水準での決定能力 ② 評価の方法のより良いものの選択能力 ③ 評価対象への客観性の高い吟味能力 ④ 評価結果を次の活動に効果的に生かす能力 |
どれも簡単に育成できるものではありません。そこで、「自己評価能力の育て方」として、安彦(1994)は5つの原則を挙げています。
[原則1]自己評価能力は、体験的にしか育てられない。 [原則2]自己評価能力は、長期的にしか育てられない。 [原則3]自己評価能力は、他者評価を含めて、段階的に育てられねばならない。 [原則4]自己評価能力は、書かせることを中心として育てられるべきである。 [原則5]自己評価能力は、基本的に学習主体・学習責任者としてとらえるべきである。 |
この5原則を前提に、安彦(2002)は、さらに具体的な方法を提案しています。
① 学習計画を立てると同時に、その成果をどう知るのかについての評価計画を立てさせる。 ② 学習者本人が、外部評価者(他者評価をする人)の評価基準を内面化していくように工夫する。 ③ 完全な「他者評価」との中間にある「相互評価」、仲間集団の中での評価の試し合いの経験をさせる。 ④ 「子どもが自分を見つめる力」を確認して、それをふくらませていく工夫を考える。 ⑤ 「自己の重層性」に気づかせる工夫をする。 |
自己評価能力は、体験的に自己評価する活動を通すことでしか高めることができません。
自己評価というと、個人の主観的な評価のみで行うイメージが強いですが、安彦(1998)は「一般に『評価』を活動の改善のためのものと規定すれば、たとえ主観的であっても、それが活動の質を改善するかぎり、なんら問題ではない」と述べます。
また、自己評価と言えども、個人は他者と支え合い、相互に作用したり影響を与えたりする関係性の中にあります。
そのため、自己評価を行う際に他者評価や相互評価を取り入れることも重要です。
また、一時的なチェックで終わらせる自己評価ではなく、長期的に計画的に継続して行うことが重要です。
〈参考文献〉
安彦忠彦(1987)『自己評価 「自己教育論」を超えて』図書文化
安彦忠彦(1994)「自己評価能力の育て方」『指導と評価』1994年7月号、図書文化社
安彦忠彦(1998)「自己評価の効用と実際」『指導と評価』1998年2月号、図書文化社