社会のタネ

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1229 教員のコーディネート

子どもの「複線型の学習」を支えるICT活用と教師の役割

8.教員のコーディネート

  前述したように、ICT活用はあくまでも 教科等の目標を達成するために学習活動の質 を上げるものでなければいけない。つまり、

子どもたちがより学習目標を意識できる授業 を教員がデザインする必要がある。そのため に、教員によるより深い教材研究が求められ る。教材研究を行うことで教育内容が吟味さ れ、学習目標が明確になる。学習目標を設定 し、明示的に示すことが教員の重要な役割の 一つである。

   また、個別学習と協働学習が同時に行われ る際、教室内にある受容的な態度と共感的な 雰囲気が必要不可欠である。これは、一朝一 夕にできあがるものではない。日常からルー ルとリレーション6の確立を意識し、心理的 安全性を担保できるように努めなければいけ ない。そのような状況の中でこそ、子どもは 自ら様々な学習方略を選択し、多様な相手と 交わりながら学習を進められるようになる。

  メタ認知は子ども自身が容易にできるもの ではない。教員による働きかけが必要になる。 例えば、ふり返りシート等を用意することが 考えられる。筆者は図8のようなシート7を ロイロで子どもたちに渡し、適宜記述させる ようにしている。

図8 単元表

 

このシートは、子どもが学習前や学習後の自分の考えを書くことで、診 断的評価と総括的評価8がしやすくなる。ま た、一覧になっているので見通しとふり返り がしやすくなる。学習履歴も可視化されるの で、適宜自分の学びを自己評価しながら自己 調整して学習を進めることができる。

   このように、子どもに学習目標を意識させ、 学習方略を選べる環境づくりやメタ認知の方 法を子どもに教え、徐々に子ども自身ででき るように促していくことが重要である。子ど も主体の学習形態は、教員が子どもにすべて を任せることや、放任することではないこと を強く意識したい。

 

 

〈註〉

6 リレーションづくり(親和的な交わり)は、互い に認め合い、助け合える関係の中で育まれる。リ レーションづくりのポイントは、教員の関わり方 と教員の環境設定である。教員の関わり方は、子 どものよさを広げたり、失敗を励ましたり、子ど もに対して温かい関わり方をすることである。環 境設定は、子ども同士が関わる環境の設定を多く することである。子ども同士でふれあったり、お 互いのよさが見える場づくりをしたりすることが 考えられる。

7  筆者は「単元表」と呼んで実践している。「単元 表」についての説明や「単元表」を活用した実践 事例は、拙著『GIGAスクール構想で変える!1 人1台端末時代の社会授業づくり』に詳しい。

8  診断的評価とは、認識様式や経験、興味関心など、 学習者の実態について学習をはじめる前に把握す るための評価のこと。総括的評価とは、単元など が終わった最終的な時点での学習者の学習成果を 把握するための評価のこと。

 

〈参考文献〉

広岡亮蔵(1968)『教育学著作集II 学習形態論』明 治図書出版

佐藤正寿 監修,宗實直樹 編著(2022)『社会科教材 の追究』東洋館出版社

堀哲夫(2019)『新訂 一枚ポートフォリオ評価OPPA』東洋館出版社

宗實直樹,椎井慎太郎(2022)『GIGAスクール構想 で変える!1人1台端末時代の社会授業づくり』 明治図書出版