社会のタネ

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608 特別教室から見る歴史

 小学校社会科における歴史学習はあくまでも人物中心の歴史学習であり、通史学習ではありません。

しかし、時間認識を養おうと思えば、時間の流れを小さい目だけで見るのではなく、大きな流れとして捉える必要もあるのではないかと考えます。

ダイナミックに歴史を捉える感覚です。

 

ここで紹介する実践は、『はじまりをたどる「歴史」の授業』千葉保(2011)に掲載されている実践をアレンジさせていただきました。

[ねらい]

特別教室ができた順序の理由を考えることを通して、学校の隠れた歴史や時代背景を理解できるようにする。

 

[学習活動1]特別教室ができた順序を予想し、発表する。

T「日本の学校制度はいつから始まりましたか?」

C「1872年(明治5年)にはじまりました」

T「これは、明治6年に建てられた開智学校です」

旧開智学校」を提示します。  

 C「西洋風だ」

資料「明治初期平面図」を配布します。

T「そうなのです。政府がお金を出したのではなく、学区の人々が集金したり寄付したりして建てたのですね。明治7〜12年頃までの6年間が洋風校舎の最盛期でした。しかし、このような洋風建築は高価だったので、安上がりで丈夫な和風の校舎を作り始めました。」

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子どもたちは様々につぶやきます。T「今の学校と大きく違うところはないですか?」

C「あれ、特別教室がない」

T「そうなのです。明治初期は理科室や音楽室などの特別教室がありませんでした」

T「1875年頃〜1950年頃にはすべての特別教室がそろってきます。「図書室」「理科室」「家庭科室」「音楽室」、どの順番でできたと思いますか?」

特別教室(図書室、理科室、家庭科室、音楽室)を提示します。

C「学力を上げるために最初にできたのはきっと図書室だ」など、各個人で予想させ、交流させます。

 

[学習活動2]それぞれの特別教室ができた理由について考え、話し合う。

T「はじめにできた教室を考える際のヒントです。このグラフを見てください」

「小学校入学者の割合の変化」のグラフを提示します。資料を基に考えさせます。

C「小学校入学者の割合は増えているけど、男子に比べて女子の割合が少な い」

T「なぜ女子の小学校入学者の割合が少ないと思いますか?」

C「それと家庭科が関係しているのかな」

C「当時、女子は学校行くぐらいなら家の仕事しろ!という風潮が高かった」

T「この頃の女子は、着物が縫えれば一人前とされていました。1875年頃から女子の就学率を増やすためにまず裁縫室ができたのですね。今で言う家庭科室です」

T「さて、次にこの見取り図を見てください。明治42年(1909年)の学校図面です」

 

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C「男女別になっている」

C「昇降口も別々だ」

C「裁縫室は女子の方にある」

C「手工室は男の方だ」

C「唱歌室はどちらにもあるね」

T「次にできた教室は歌唱室。つまり音楽室なのです。なぜだと思いますか?」

今度は先にできた教室を子どもたちに伝えて、その理由を考えさせます。

C「1904年の日露戦争だ」

予想させた後に「日露戦争想像図」を提示します。

C「軍歌が一般に普及し、唱歌への認識が高まったんだ」

C「戦争と関係しているんだね」

T「さて、残る派理科室と図書室。3番目にできたのはどちらだと思いますか?」

C「これも戦争関係で理科室かな…」

T「理科室の設置が飛躍的に増加したときがあります。1919年頃なのです」

C「第一次世界大戦(1914~1918)の後だ」 

T「ドイツの科学力(戦車や毒ガス)に驚嘆し、近代兵器の出現に目をみはり、理科教育の重要性を改めて認識したのです。大正時代に急激に増えていきました」

これは難しいので教師が説明します。

T「さて、最後は図書室です。第2次世界大戦後に設置されました。なぜだと思いますか?」

C「もう戦争も終わったから兵器とかは必要ない」

C「戦いではなく、教養が必要だとされたからかな?」

T「アメリカの教育使節団が調査に来ました。戦争中に日本人が一つの思想にこりかたまったのは多様な本を読まなかったことだとされ、戦後、図書室をつくることが義務づけられました」

 

[学習活動3]特別教室ができた順序から読み取ったことをまとめ、その他にも歴史がみえるものがないかを考えノートに書く。

T「答えは家庭科室→音楽室→理科室→図書室でした。特別教室ができた順序から、どんなことが見えてきましたか?」

C「時代背景」

C「その時の様子」

C「時代の移り変わり」

C「戦争との関係」

T「特別教室ができた順序には隠された歴史がありました。他にどんなものを見たら「時代背景」や「その時の様子」や「戦争との関係」などが見えてくると思いますか?」

C「例えば…制服」

C「運動場」

C「流行った遊び」

C「家」

C「遊び」

C「漫画」

特別教室が設置された順序以外でも、「歴史の見方」を深められるものがあるかを考えさせます。「歴史の見方」をこれから自分自身で広げていこうとする姿が期待できます。その後、〈ふり返り〉を書かせます。

[ふり返り](例)

特別教室ができた順序を調べるとで(時代背景)がわかる。私は(特別教室からその時代の特徴が見えることが意外だった。これから歴史を捉えるときに、大きな目で見られるようにしていきたい)」

 

 特別教室が設置された順序とその理由を考えることを通して、学校の隠れた歴史や時代背景や時代の変遷が見えてきます。

また、学校教育が国策と深く連動して推移してきたことも見えてきます。

子どもの教育だけを考えてつくったと思っていた特別教室が、実は戦争と大きく関わっていたことに児童は驚きを隠せないでしょう。

そうした「歴史の見方」の愉しさを児童に味わわせると共に、ある観点から歴史を見ることで子どものもつ時間認識をさらに深めさせることができます。

 

 

〈参考文献〉

『社会科の「つまずき」指導術』宗實直樹(2021)明治図書