社会のタネ

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646 「利他」とは何か

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新型コロナウィルスの感染拡大によって世界が直面するなか、「利他」という言葉が注目を集めています。


 ビジネスの現場等、実際に人々のあいだにも利他的な意識や行動が広まっています。


 「利他」とは何なのか?
 「利他」はなぜ重要なのか?


 利他ということがもつ可能性だけでなく、負の側面や危うさも含めて述べられている書です。

 

 また、本書のおもしろさの一つが、利他について分野も背景も異なる5名の研究者が、それぞれの視点で論じている所です。

 

 第1章では、美学者である伊藤亜紗氏が共感や数値化に潜む危うさと、「余白」をもつことに利他の可能性について論じています。


 第2章では、政治学者である中島岳志氏が「贈与」や「他力」といった利他の根幹に関わる問題について、文学作品等を手がかりに論じています。


 第3章では、批評家、随筆家である若松英輔氏が、「民藝」の美を通して利他について論じています。


 第4章では、哲学者である國分功一郎氏が、中動態の枠組みから、近代的な責任概念の捉え直しを論じています。


 第5章では、小説家である磯﨑憲一郎氏が、小説の実作者の立場から、「つくる」行為の歴史性について論じています。


 5名それぞれが述べている内容は違いますが、同じキーワードや観点を共有しています。

読む人によって心に響く章が違うと思います。


 はっと気づかされることも多く、日常の中に潜む利他的な関係のおもしろさや難しさ、奥深さを捉え直すきっかけとなる一冊です。