社会のタネ

社会科を中心に、アートや旅の話などもあれこれと。

1416 『社会科実践の追究』

【新刊】

届きました!

やっぱり手に取ると嬉しいものです。

表紙の質感、色も気に入っています。

古書を彷彿させるようであり、上品なゴールドの風合いもあり…。

読み込んでいくことでいい味を出してくれそうです。

 

毎回のことですが、一冊の本ができあがり、読者の方に届くまでには本当に多くの方々が関わってくださっています。

編集・校正してくださる方、装丁、印刷、運送、本を並べてくださる方々、宣伝してくださる方々、、、数え上げればきりがありません。

すべての方々に感謝です。

本書は正直「売れる本」ではないと思います。

しかし、丁寧に誠実に編んで魂を込めた一冊であることは間違いありません。

そういう書がお好きな方にぜひ手に取っていただきたいです。

よろしくお願いいたします!

 

以下、「はじめに」より。

 

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はじめに

 

古書は先人との出会いであり、先人との対話である。

 

私が古書に興味を持ち出したのはいつごろでしょうか…。きっかけは、私の所属する研究会「山の麓の会」の『歴史人物エピソードからつくる社会科授業42+α』執筆のため、2019年の初夏に山口康助の『人物・物語を重視した歴史学習』を手に取ったことと記憶しています。また、「新学習指導要領を読み込む会」(詳細は巻末)を2018年5月30日 から始め、約1年間かけて「学習指導要領解説編」を読み込みました。全ページを読み終えた後、2019年7月から社会科の本質的な部分を見ていこうと考え、古書を中心に読み込むようになりました。森分孝治の『社会科授業構成の理論と方法』が一冊目でした。つまり、必要感や問題意識が同時に高まっていた時期に読み始めたということです。

古書から学ぶことは非常に多く、今でも色あせない実践や理論が凝縮されています。逆に、今だからより新しく感じるものもあります。先人の理論や実践から学び、今の授業や教育つながるところを見出していこうと考えました。古書の魅力に惹きつけられました。古書を買い漁り、貪るように読みました。

 

それから1年後、古書から得た学びをまとめようと考えていました。2020年12月13日に題を「古書から学ぶ社会科教育」とし、次のようなメモを残しています。

 

(内容)

「古書」から学び、新たなや実践を見出す。

・執筆者と古書との出会いやエピソード

・古書の内容、分析、価値

・古書から得た学び

※古書の紹介だけに終わらずに今の授業づくり社会科教育のあり方につなげる

 

当時の構想と大きくは変わらず、本書は決して古書を紹介するだけの書籍ではありません。古書を通じて、社会科教育とは何か、社会科授業とは何かについて言及した一冊です。つまり、社会科実践の追究です。

 

世代を超えて続く知識の共有の一環として、私たちは無限の可能性と喜びを体験しています。古書は過去の知恵と文化を体現し、教育において非常に貴重です。本書では、古書が教育に持つ価値となぜ私たちが古書に魅了されるのかを探究し、その魅力を共有したいと考えます。

古書は単なる古い本ではなく、過去の知識と洞察が詰まった宝庫です。古書を読む意味は知識の増加だけでなく、ページをめくる行為が想像力や批判的思考を刺激し、新たな視点を提供する点にもあります。古書を読み解くことは、教育者としての鋭敏な観察力や深化する学びの姿勢を育む機会であり、過去の知恵との対話から、現代の教育課題に新たな洞察をもたらす機会でもあります。本書では、古書を理解し、実践に活かすためのアプローチや方法を提案します。

 

第1章では、「『古書』をとらえる構え」として古書を教育者が探究する意義に焦点を当て、5つの視点でまとめています。また、古書の見方や読み方を通じて教育者の観察力や学びの姿勢を深める方法を探ります。

 

第2章では、具体的な社会科の古書を紹介し、それぞれの古書が提供する視点や示唆について掘り下げます。内容は「本書について」「本書の価値」「本書から得た学び」という構成になっています。古書の概要や、執筆者がどこに価値を見出したのか、どのような学びを得て何をどのように今に受け継ぐべきかなどを詳細に述べています。これによって、古書のどの部分をどのように授業や実践に活かせるのかを明らかにします。

古書の選定は大いに悩みました。巻末資料に示した通り、2022年6月に挙げた候補書籍が総勢87書籍ありました。その中から今回は22の書籍を挙げています(巻末の「候補書籍一覧」では、その残りの65冊を紹介しています)。今の社会科授業や実践に役立ちそうな点や今の社会科にこそ必要だと感じている点で選定したのはもちろん、できるだけ全体のバランスをとること、かつ執筆者の個性と思い入れ等を加味しての選定となりました。

それぞれの古書を大きく5つに分類しました。「初期社会科」「授業実践」「方法論」「内容論」「子ども理解」です。「初期社会科」として2冊、「授業実践」として2冊、「方法論」として6冊、「内容論」として9冊、「子ども理解」として3冊を紹介しています。「内容論」の中から「教材」を独立させた方がよいのか、「発問」というジャンルで分けた方がよいのかなど、分類も悩みました。前から順に読んでいただいても構いませんし、興味のあるジャンルから読んでいただいても構いません。それぞれの読み方をお愉しみください。また、それぞれのジャンルの内訳は年代順に並べています。年代を追うだけでも見えてくるものがあります。「古書」から得る22の学びの種を味わっていただけると幸いです。

 

巻末では、「古書の世界への誘い-『社会科の本を読みこむ会』の軌跡と展望―」とし、古書を共に読み解く場の歴史に焦点を当てます。古書を読み込むきっかけにもなった「社会科の本を読み込む会」がどのようにはじまり、どのように行われてきたのか、記録も含めて詳細に記しています。古書を通じて教師同士の交流や知識の共有が行われ、過去からの学びを未来へと継承し、新たな教育の地平を切り拓く一助となることを提案します。

 

以上が本書内容の概要ですが、本書完成までの道のりは平坦なものではありませんでした。その過程において、チームとしての協働活動が不可欠でした。前著『社会科教材の追究』と同じく、異なる専門性や経験を持つチームメンバーが集まり、古書の魅力について熱く語り合いました。それぞれ読んできた古書は違えども、お互いの「授業観」や「教育観」、「社会科実践観」等は知り尽くしているメンバーです。執筆に関してはお互いの原稿を何度も読み合い、一貫したものにしています。共に古書に触れるたび、厚い歴史の積み重ねを感じ、古書のページをめくる手には、先人の知恵と未来への願いが宿るように感じました。本書は、その成果を表現するものであり、古書と共に歩み、未知の世界へと飛び出す魅力的な旅への招待状になったと自負しています。

 

古書は先人との出会いであり、その多くの出会いが読者の学びを豊かにし、子どもたちの成長を支える力となります。古書との対話は、新たな知識や洞察をもたらすとともに、「授業観」や「教育観」、「子ども観」などをアップデートし、教育者としての自己成長を促してくれることでしょう。古書の魅力に触れながら、本書を通じて読者の皆様の理論や実践がより深くより豊かになることを期待します。共に歩み、新たな発見や感動を得ながら、教育の可能性、社会科実践の可能性を広げていく喜びを分かち合いましょう。

 

 

2023年11月

宗實直樹