原田マハ氏のアート小説をこよなく好んで読んでいます。
本書は原田氏得意の史実に基づいたフィクションアート小説。『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』のようなミステリー性はありません。しかし、やはり惹き込まれながら読み進めることができます。実に味わい深い作品です。
本書を一言で表現すると、「愛」である。人への「愛」。国への「愛」。そして「芸術、陶芸」への愛。原田氏の小説は、いつもいっぱいの「愛」に溢れています。
日本文化を愛し、東西の文化交流を目的に来日したバーナード・リーチと、彼の書生を務めた沖亀之助の交流を中心に書かれています。多くの日本人芸術家と交流し、支えあいながら日本の美を愛し、日本と西洋の架け橋となったバーナード・リーチ。事実に基づいたフィクション作品ですが、全員が実際に存在したいたかのようにリアルに描写されています。今にも目の前で登場人物が動きだすような感覚。リーチ、濱田、亀之助(架空の人物であるが)に無性に会いたくなる。そういう感じにさせてくれる書籍。
素晴らしい出会い。大切に想う気持ち。そして情熱…。読み進めるごとに胸にグッとくるものがある。何度も感動する瞬間に出会うことができる。壮大なドラマです。
はじめはだれも「名もなき花」。
「—やったことがない。行ったことがない。体験したことがない。
だからこそ、やってみる。だからこそ、行ってみる。だからこそ、自分自身で体験してみる。
わからないことは、決して恥じることではない。わからないからこそ、わかろうとしてもがく。つかみとろうとして、何度も宙をつかむ。知ろうとして、学ぶ。
わからないことを肯定することから、すべてが始まるのだ。」
何かを始めるときの人はエネルギーに満ちあふれています。周りから見れば滑稽と思えるほどの没頭ぶり。こういう姿、何歳になっても大切にしたいと思います。そこから生み出されるものはいつも尊い。
「好いものは、好い…。」
そう。
いつになっても、好いものは、好いのです。