社会のタネ

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1230 9.データ駆動型教育へ

子どもの「複線型の学習」を支えるICT活用と教師の役割

9.データ駆動型教育へ

 

  以上、述べてきたように、ICTの活用によ って学習の質は大きく変化する。教員の適切 なコーディネートによる学びを進めることで、 子どもの活動は拡張され、今後の新しい学びの形も期待できる。しかし、これらは、教師 個々の主観的な判断だけではなく、定量的・ 客観的な視点に基づく支援も必要だと考える。

  高谷(2022)は、デジタルの特性を生かし た教育の事例を挙げ、それらの効果を認めた 上で「GIGAスクールによるデジタイゼーシ ョン、紙のデジタル化という第一段階、ある いはデジタライゼーション、個々の最適化に 進んだ第二段階への入り口に過ぎない」と述 べる。

図9 教育のデジタルトランスフォーメーションへのプロセス

 

図9に示すように、新たな価値や構造 を創出・変革し、デジタル社会を見据えた教 育を目指す第三段階のデジタルトランスフォ ーメーション9にまで至っていないという指 摘である。第三段階へ大きく進む鍵となるの が定量的・客観的な教育支援に、蓄積された データ10を活用していくことである。教育に おけるデータの利活用が、今現場が直面して いる課題といえるだろう。

   学校内には実に様々なデータが蓄積されている。そのデータを集約し、量的質的に可視 化したり様々な視点から分析したりすること で、客観的なデータに基づく教育課題の改善 につなげることができる。例えば、校務系と 学習系のデータ連携によるきめ細かい指導、 学習時間やテストの正誤判定等の記録の授業 や学びへの活用、メタデータ検索による授業 素材の収集11などが考えられ、これが学習指 導・生徒指導の質の向上や学校運営の改善、 保護者への具体的な情報提供にも繋がる。こ れにより、今まで言語化することが難しかっ た子どもの実態を裏付ける根拠や、気づきに くい課題を発見するきっかけを得ることがで きる。可視化されたデータに基づいて、一人 ひとりの子どもに応じた指導や支援を行うこ ともできる。教育現場における、データ利活 用の可能性は大きい。

   ここに例示されている姿は、教育にデータ 駆動12が取り入れられることで実現されるも のとなっている。高谷は、「この先、第三段 階であるデジタルトランスフォーメーション には、データも駆動した様々な学びの可能性 が広がっています。これは当然デジタル技術 の進展だけではなく、学習者や教育者の受け 止め、社会の理解、教育現場の対応様々な要 因を踏まえながらつくられていくことになる でしょう。」と述べる。今後、さらにデータ を収集・分析・活用し、データ駆動型教育13 を行うことが重要だと考えられる。

  

〈註〉

9  スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルタ ーマン教授が、2004年に論文の中で「情報技術の 浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向 に変化させる」と定義した。

10  子どものデジタルドリルやワークシート、アンケ ートなどの学習系データや、日常所見や出欠情報、 成績評定情報などの校務系データが挙げられる。

11 教育データ利活用ロードマップ 令和4(2022) 年1月7日 デジタル庁・総務省文部科学省経済産業省「教育データ利活用の目指すべき姿」 より一部抜粋。

12 根拠、エビデンスに基づくという意味で「エビデ ンス駆動」とも呼ばれる。

13 客観的なデータに基づいて日々の授業を改善し、 教育行政の方向性を見いだしていく教育のこと。

 

〈参考文献〉

高谷浩樹(2022)『「GIGAスクール」を超える― データによる教育DX実現への道程』東洋館出版

浅野大介(2021)『教育DXで「未来の教室」をつくろう』学陽書房