社会のタネ

社会科を中心に、アートや旅の話などもあれこれと。

1227 教員の役割

子どもの「複線型の学習」を支えるICT活用と教師の役割

6.教員の役割

  吉崎(1997)は、授業における教員の役割 として、設計者(計画者)、実施者(実践 者)、評価者という3つの異なる役割を同時 にもっていると述べる。その中の設計者(デ ザイナー)としての役割の大きさを主張し、 教員の新しい役割として「人的ネットワーク づくり」と「学習環境づくり」を挙げる。そ の「学習環境づくり」の項で挙げられている 実践例を紹介4する。 場所は横浜市立中川西小学校。学年は2年 生。担任は中川一史教諭。中川西小では、学 校の至る所にパソコンが置かれて、全校の子 どもたちが自由に使うことができる環境にな っている。中川は、パソコンの使い方につい て何ら規制を加えることなく、子どもたちの 自由にまかせていた。中川はパソコンクラブ の担当をしている関係で、教室のその近く廊 下には合計6台のパソコンが置かれている。 休み時間になると、1~6年生の子どもたち が中川学級と周辺にあるパソコンをめあてに やってくる状況だった。2学期の半ば頃、パ ソコンの日本語が読めなくなる、子どもの描 いた絵のデータが消えてしまうという問題が 起きた。1年生の操作ミスだった。中川学級 における話し合いの結果、1年生のために 「パソコン教室」を開くことになった。最初 はうまくいかなかったが、試行錯誤しながら、 休み時間の中で2年生と1年生が異学年で学 び合う空間が生まれた。その際、中川は次の ように述べている。「まったく白紙の状態からスタートしても、子どもたちはそれなりに枠を作っていくだろう。それがある程度できたところで、こちらから乗り出していって、パソコンというものを学校生活に位置づけたい。つまり、後追いしつつコーディネートするのが、私の役割と考えたのです。」と。

  当時と今とでは環境や使用している道具は違うが、中川の言葉は新しいものが入ってくる際に教員がもつべき考え方だと捉えることができる。つまり、教員が状況に応じながら子どもの主体性を育むためにコーディネートしていくことが重要だということである。このコーディネーターとしての教員の役割が今後さらに必要となる。

 

〈註〉

4 この実践の様子は『NEW教育とコンピュータ 1996年5月号』に詳述されている。

 

〈参考文献〉

吉崎静夫(1997)『デザイナーとしての教師 アクタ ーとしての教師』金子書房

『NEW教育とコンピュータ1996年5月号』学習研 究社