社会のタネ

社会科を中心に、アートや旅の話などもあれこれと。

415 ミクロな比較

 社会科授業における比較として、「概念的知識を獲得するための比較」と「概念等に関わる知識を豊かにするための比較」を考えています。

それぞれ、「ミクロな比較」「マクロな比較」と呼ぶことにします。

 

【ミクロな比較】

「ミクロな比較」は目に見える具体的知識同士の比較です。

概念的知識を獲得するための比較です。

 例えば、きゅうりとサンマの輸送方法を比較します。

運んでいるものは違うけれど、どちらも「保冷トラックなどで新鮮に届ける工夫をしている」ということは同じです。

「同じ」と「違い」がはっきりします。それぞれの社会的事象を際立たせ、そのしくみをよりわかりやすくさせるのです。

下のノートを書いた子は、魚をいけすで育てることとそうでないことを比較することで、いけすで育てて出荷することの「よさ」を捉えています。

 

 

 5年生「環境を守るわたしたち」では、「琵琶湖」を事例として扱いました。琵琶湖では、工場排水や生活排水が原因で1977年に大規模な赤潮が発生します。琵琶湖を守るために主婦層を中心に活動が拡がりました。琵琶湖を汚す合成洗剤を使わないように呼びかける活動「石けん運動」です。熱心な活動の結果、琵琶湖の水質は改善され、様々な環境保護活動が広がりました。それらの事実を捉えさせます。「悪化した環境を改善・保全するための取り組みが人々の努力や協力のもと進められている」という概念的知識を獲得することができます。

 「昔きれいだった川が汚れる→どうにかしなければいけないと人々が立ち上がる→改善される→環境を守り続ける活動を続ける」と、琵琶湖の事例と活動の流れは同じなのだと気づきます。 琵琶湖の環境が改善され、環境保護活動が様々な形で展開されていることを学習するときに「これって琵琶湖だけが特別なのですよね?」とゆさぶります。「いや、そんなことない。教科書に似ていることが載っています」と子どもたちは気づきます。そして、教科書に掲載されている京都の鴨川の事例を見るのです。

 そこで、琵琶湖で活躍した藤井さんと、教科書に出てくる鴨川で活躍した杉江さんが会話をするとどのような会話になるのか考えさせます。同じ想いをもった二人を比較させ、二人の対話を考えさせることで、環境に対して取り組む人々の思いや願いを深めることができます。(二人に対話させる実践は、村田辰明氏の実践を参考にしている)

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 「場所は違うけれど、人々の様々な努力によって環境が改善され守られているんだ。琵琶湖や鴨川の他にも同じような事例があるのかな?」と追究したり、「様々な人ががんばっているんだ。じゃあ私もできることからがんばろう」と意欲を持たせたり、子どもの追究意欲や行動意欲を高めることができます。また、子どもたちが日常生活で似たような事例に出合った時に比べることで「あ、琵琶湖や鴨川と同じように…」と、自分の認識を再確認することもできるのです。

 また、次の歴史学習のノートを書いた子は、〈ふり返り〉中で、「権力者」を比較しています。

 

織田信長源頼朝でしょうか。

藤原道長足利義満かもしれません。

いずれにしても信長と他の権力者を自分の中で比較することを通して、「強い権力をもつ人」に対する概念的知識を構築しています。

 

 「ミクロな比較」は無数にあります。無意識のうちに「ミクロな比較」をしていることはよくあるでしょう。

しかし、私たち教師や子どもたちが意識的に使えるようになると、ものの見方が大きく変わるかもしれません

上記の子のように、比較を当たり前にすることで、日常的に自分自身で思考を働かせられるようになるのです。

このように、1時間の授業を組み立てるときに、意図的に比較思考を取り入れてみることをおすすめします。