社会のタネ

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1096 社会的相互交渉への動機づけ

 波多野誼余夫・稲垣佳世子(1971)は、

「社会的相互交渉への動機づけは、『仲間の人びとと、情報・影響・寄与ををやりとりする行動』を誘発し、かつそうした行動が実現されれば低減する(充足される)といった性質のものである。」

と述べています。

また、次のようにも述べています。

「相互交渉の過程は、それ自体必然的に学習をもらすものではないが、しばしばその契機を提供する。ダベっている時に、ヒョイとよいアイディアが浮かんだりするし、相互批判が知的進歩の源泉であることも疑いないだろう。さらに、誰かの役に立ちたいとか、自分の帰属している集団の発展に寄与したいといった願望が知的活動に大きなエネルギーと持続性を与えることも確かであろう。」

そこで、この相互交渉への動機づけを、授業でいかに利用するかを提案しています。授業の中で、子ども同士の活発な相互交渉を許し、授業の中で子どもが様々な役割をとれるようにする、ということです。そこで、「学習者の役割には4つのものがあり、そのすべてが満たされるほど学習を促進する」というムーアとアンダーソンの考え方を紹介しています。少し長いですが、示唆に富む内容なので引用します。

「第一の役割は、『働きかける人』のそれである。これは、環境にはたらきかけて、そこに変化を生ぜしめたり、特定の情報を収集したりする能動的な活動と結びついている。第二は、『待ち受ける人』の役割で、ちょうど医師の診療を待つ患者のように、自分が制御しえない環境内び変化が生ずるのを受動的に待っているのがこれにあたる。伝統的な一斉授業のもとでは、学習者はもっぱらこの役割のみを強制されて来た、と考えてよい。第三は『やりとりする人』。この場合には、自分と相手の両方がイニシャティブを持っているから、相手の攻め口にあわせて作戦をかえたり、表面にあらわれた動きから相手の意図を読み取ったりすることが要求される。第四は『判定する人』の役割である。つまり、ゲームの当事者の行動を評価したり、やりとりの経過をみていてある助言を行ったりすることがこれにあたる。

 子ども同士からなる集団を自由に活動させておくと、濃淡の差こそあれ、どの子どももこれらの役割のすべてを経験するだろう。自分から先頭に立って遊ぶときもあれば、他人の遊びをじっとみているときもある。相手の立場に立つことむずかしいにしろ、妥協や折衷はしばしば生ずるし、なかには仲裁をかって出る子どももいる。しかし、おとながが一定の原則をもって子どもをしつけようとするときや、子ども同士の集団に介入しすぎるときには、子どもの経験する役割が限定される危険が大きい。これは、 ほとんどの場合、『待ち受ける人』に子どもの役割を固定する結果となる。伝統的な一斉授業は、まさにこの典型である。だから、授業で相互交渉の動機づけを生かそうとすれば、 結局ほかの三つの役割を積極的に導入するか、ないしは教師の統制を大幅に弱めることになるだろう。」

 

ここに、授業を変えていくポイントと、協働的な学びを進めることの重要性が指摘されていると考えられます。

このような子ども同士の相互交渉を活発にするために教師の一方的な指導を減らしていく必要があります。「働きかける人」「待ち受ける人」「やりとりする人」「判定する人」、子どもがこれらすべての役割を経験できる余白をつくり、その環境を整えることが重要です。