「社会科にとって地域は大事ですよね」と、多くの方が口をそろえておっしゃいます。 でも、その“当たり前”が、これまで実際にどのように語られてきたのかを、改めてふり返る機会は案外少ないのではないでしょうか。 そこで今回は、教育雑誌『社会科教育』の特集の流れをたどりながら、地域学習という視点が、どのように扱われてきたのかを整理してみました。 『社会科教育』創刊号からこれまでに扱われた「特集」は、次のようになっています。 1965.7.No.10「郷土学習の指導内容を再検討する」 1966.4.No.19「地域科学と地理学習の問題点」 1967.6.No.34「郷土の実態と地域開発指導の問題点」 1967.11.No39「日本の地域的・文化的特性をどう指導するか」 1968.5.No.45「地域の実態と地方自治学習の進め方」 1969.4.No.56「地域性に立脚した単元構成と年間計画」 1972.9.No.97「社会科学習にとって「地域」とは何か 1975.5.No.131「地域性を加味した指導計画のたて方」 1976.7.No.147「地域課題の教材化と地域学習の改善」 1977.5.No.159「地域の変貌をおさえた単元構成」 1978.7.No.176「地域学習と国土認識の接点はどこか」 1979.3.No.186「地域の民俗資料を生かす授業の構想」 1980.4.No.201「地域教材を生かす単元構成の条件」 1983.3.No240「地域事象をどう学習問題化するか」 1984.5.No.256「教材に「地域性」をどう盛込むか」 1986.5.No.283「地域資料の発掘と収集活用のヒント」 1994.11.No.398「地域学習に生きる「郷土の人物」195例」 2008.8.No591「新要領“地域資源学習”で変わる教材開発」 2015.2.No.670「地域課題を今、“知っ得ネタ”教材化ヒント」 こちらを見られて、多いと感じられますでしょうか?少ないと感じられますでしょうか?
■地域は、かつて「授業づくりの柱」だった
1960年代から1980年代にかけて、『社会科教育』には「郷土学習の指導内容を再検討する」や「地域の変貌をおさえた単元構成」といった特集が継続的に掲載されていました。 どのタイトルからも、地域を出発点にして社会をどう学ぶかという問いが感じられます。 この頃の地域学習は、身近な素材の紹介だけではなく、「社会そのものを捉える装置」として位置づけられていました。 地域開発や地方自治の学習、地域資料の発掘といった実践も盛んで、授業実践と理論の両輪で取り組まれていたことがわかります。
■「地域を使う」から「地域を組み込む」へ
1990年代に入ると、誌面に少しずつ変化が見られます。「郷土の人物195例」や「地域課題の教材化」といった特集からは、地域を“構成的にとらえる”というよりも、“活用できる素材のひとつ”として扱う方向へのシフトが感じられます。 このあたりから、地域は「社会の構造を問う場」から、「学習活動の題材」として扱われる傾向が強まっていったようにも思われます。
■最近、「地域」が誌面から消えている?
2010年代以降、「地域」を正面から取り上げた特集はほとんど見られなくなりました。2015年に「地域課題を“知っ得ネタ”に」という特集が出たものの、そこでも“ネタ化”や実践テクニックの紹介が中心で、社会認識の育成という本質的な問いからは距離があるように感じられます。 この背景には、「歴史・地理・公民の順に読者の反応が強い」という編集部の方のお話や、「地域」という言葉の抽象性があるのかもしれません。たしかに、“地域”と一口に言っても、どこを指し、どう扱うのかがわかりにくいという声も理解できます。
■なぜ地域が語られにくくなったのか?
地域が特集されにくくなってきた背景には、さまざまな要因があると考えられます。 一つには、学習指導要領の方向性や教育全体の流れが「資質・能力」や「探究」「ICT」といったキーワードに大きく舵を切ったことが挙げられます。そしてもう一つは、「地域」という概念が再定義されることなく、これまでの実践や理論と切り離されてしまったことです。 「地域を学ぶ」という営みが、「身近なものを調べること」と狭くとらえられてしまうと、それはただの“調査学習”になってしまいます。 かつてのように、「地域を通して社会の構造を見つめる」ような学びが、見えにくくなってきているのかもしれません。
■それでも、やっぱり地域は「社会科の入り口」
地域は、子どもたちが社会とかかわる最初の場所です。 家や学校、商店街、駅、役所…。子どもたちはすでに地域の中で生きています。 そうした日々のくらしとつながる場から出発してこそ、社会科のねらいである「社会的な見方・考え方」も、より実感をもって育っていくのではないでしょうか。
■もう一度、地域と向き合うために
今、「地域」はあらためて問い直される時期に来ているように思います。 そもそも「地域」とは、「身近」とは何なのか。 持続可能な社会、自然災害、人口減少、高齢化…。 地域には、今の社会が抱える課題がぎゅっと詰まっています。 だからこそ、地域学習は“古くさい”ものではなく、むしろ“新たに問い直すべき学び”なのです。 地域が誌面から少しずつ姿を消してきた今だからこそ、私たち教師のまなざしと実践によって、もう一度地域の声をすくいあげていきたい。 誌面上では語られにくくなった地域の声を、僕たち教師の実践とまなざしによってもう一度ひらいていく必要があるのではないでしょうか。 常に追究し続けているテーマのひとつですが、この機会にさらに掘り下げていきたいと思います。