〈「比較」を通して問題を追究する〉
問題を追究するときに一方の見方のみで考えることは望ましいとは言えません。
Aの立場、Bの立場で対象を見ることでより客観的に事象や問題を捉えることができます。
4年生「県内の特色ある地域のくらし」の単元を例に挙げて説明します。伝統的な文化を保護・活用している事例地として、兵庫県豊岡市城崎に焦点をあてました。単元として獲得させたい概念的知識と「問い」の構想は下図の通りです。
本時の学習活動についても下図をご覧ください。
まず、城崎伝統の木造三階建ての町並みを守ろうとする「城崎温泉町並みの会」の活動内容を捉えさせます。
次に、伝統的な町並みの城崎に、モダンなデザインの新しい商業施設(以下、木屋町小路)が設置されることになったことを資料で伝えます。
子どもたちの多くは、「え〜、このデザインは城崎に合わないよ…」とつぶやきます。「城崎温泉町並みの会」が反対した理由は容易に考えられます。
同時に木屋町小路に関する資料を配付し、木屋町小路を建設しようとした理由を子どもたちに読み取らせます。
その後、「城崎温泉町並みの会」の人々が反対している理由、木屋町小路を建てようとしている側の理由を挙げさせます。
どちらの立場の主張も確認し、それぞれのメリット・デメリットも把握させるためです。
それを踏 まえた上で「あなたは木屋町小路設立に賛成ですか?反対ですか?」と問います。
「ずっと守ってきた城崎の木造の町並みをやっぱり守りたい」
「城崎は木造の雰囲気がいいのに,木屋町小路はコンク リートだから適していないよ」
「木屋町小路は未来っぽさがあってお客さんも来てくれると思う」
「いろんな店が集まっているので、寄ってもらえるようないいものになると思う」
など、事実に基づいた意見が多く出されます。
このように子ども同士の考えがズレるので、話し合いに熱を帯びます。
話し合いを通して、結局はどちらも地域の活性化や城崎の未来のことを考えているという点を確認させます。
多面的・多角的に社会的事象を捉え、より豊かな概念形成につなげることが大切なのです。
また、このような話し合いの場面では、対立軸があるので自分の意見と友だちの意見を比べながら考えることができます。
比較するということは、両極端な思考を改め、お互いの間にある中間の発見につながります。
これは、二者択一の極端で主観的な思考判断とは違い、バランスを考えた思考です。
また、より公平な価値判断を可能にし、真の問題解決を可能にする基礎となるのではないでしょうか。
つまり、比較をして考えることで、調和的な思考が身につき、豊かな判断につながるのです。
実は、この授業の話には続きがあります。
話し合った内容が気になった子が、実際にその場へ足を運んだのです。
自分の目で確かめてから判断したいと思ったのでしょう。
この子は授業をした時は「反対」だったのですが、実際に見ることで「賛成」に変わりました。話し合いの先にあるものを大切にしたいと思いました。
実際に見て感じた判断と、自分の過去の判断を比較したのでしょう。
実際に足を運び、自分の目で見て判断する。このような姿は目指したい豊かな子どもの姿の一つです。