【追究の視点】
子どもたちが「比較」の思考を使うようになると、そこから様々な視点で見られるようになります。
例えば、「メリット・デメリット」視点や「共通点」視点などです。
私は「追究の視点」と呼んでいます。
子どもたちがこのような「追究の視点」を獲得すると、より豊かに物事を見られるようになってきます。
以下の資料は子どもたちの自主学習ノート(本学級では「追究ノート」と呼ぶ)です。
このように、社会科で獲得した見方が、社会科の学習以外でも物事を追究する際の視点にもなっています。
つまり、比較の方法が転移するのです。これは、今まで述べてきた内容知に対して方法知としての考え方です。子どもたちが比較の思考法を自分のものにして、どんどんと使いこなせるようになるということです。自然と内面的な比較思考が働き、常に比較の眼をもつことで、豊かに物事が見られるようなります。
【教材研究の視点】
教師が教材研究をする際の視点としての「比較」について説明していきます。
例えば、以下の表は3年生「私たちの市」の教科書を比較してそれぞれ扱われている事例を比較したものです。
扱っている事例地はそれぞれ違います。
ある出版社のみが古い建物を扱ったり、逆に新しい住宅地の記載が無かったりします。共通してどの教科書も駅周辺の様子や海の近くの様子、自然環境等が記載されています。
比較することで各教科書の共通点や相違点、傾向などがわかり、中心的に扱うべき内容ももよく見えるようになります。
以下は、4年生「郷土の伝統・文化と先人」の教科書を比較してみました。
どの教科書も、「開発」「教育」「医療」「文化」「産業」それぞれの分野の人物を掲載しています。
しかし、大きく頁をさいて扱われているのは「開発」分野の人物です。
事例として「開発」分野の人物が扱いやすいということがわかります。
実際、次のような調査も過去に行われています。
ここの学習では、地域の偉人について扱います。
実際は自分たちの地域でどの人物を扱うのかから考えなければいけません。
しかし、過去に「開発」分野の人物選択が多いという事実から、「開発の分野で適した人物がいないかなぁ…」と絞って探せばよいということに気付くでしょう。
逆に、新設された「医療」分野で教材開発をしてみようというチャレンジ精神も生まれるかもしれません。
その際、教科書で扱われている人物を参考にしながら開発していくことも有効だと考えられます。
次は、4年生「特色ある地域と人々のくらし」の教科書比較です。
比較しながら、自分たちの県ではどこを扱うことが望ましいのかを一番下の欄に書き込んでいます。
ここでは、教科書に掲示されているまとめ方の例も非常に参考になります。
このような一覧表を作成して比較することでアイデアがわいてくることも少なくありません。
以下のように1時間授業レベルに絞って比較するだけでも違います。
どの事例を扱い、どんな「問い」を構成して、何を捉えさせようとしているのか、参考になります。
ここでは、教科書比較については多くはふれませんが、教科書比較に関する記事はこちらをご参照ください。
最後に、比較についての記事を書いた際の参考文献です。
以下、ご参照ください。
『子どものものの考え方』波多野完治 滝沢武久(1963)岩波新書
『社会科における比較学習の指導』山口康助 編著1975(明治図書)
『比較学習による社会科授業の展開』木原健太郎・佐野藤雄 編1981(明治図書)
『社会科の授業設計』岩田一彦1991 東京書籍
『創造的見方考え方をのばす社会科の指導技術 高学年』山中升 1967
『社会科歴史授業における比較史の教育』沖野舜二1962
『新しい社会科指導法の創造』(1978)大森照夫 編著 学習研究社
『社会科における思考の因子とその形成』山口康助(1970)
『思考と認識を深める社会科指導』山中升(1964)
『立体的地理教授』真銅捨三(1925)
『ステップ解説 社会科授業のつくり方』澤井陽介・中田正広2014東洋館出版